58/77
前へ
/399ページ
次へ
何度か言ってみるも、和明は曖昧な返事ばかりだった。 業を煮やした瑞希が、両家の顔合わせを段取りして、それから結婚へ向かって歩みだしたんだけど。 どれだけ記憶を遡っても、和明が首を縦に振っていたところを、瑞希は思い出せなかった。 (……あ、私……) 指先が、だんだんと冷たくなっていく。 思い出せる和明との会話は、すべて結婚についての義務的な話か、仕事関連の話だけ。 ほかに覚えているのは――――。 『……瑞希って、なんで結婚したいの? 仕事一筋なんだし、ひとりで生きていけるじゃん』 呆れたような和明の呟きが、瑞希の脳裏に甦った。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加