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午後4時過ぎ。
そろそろ行こうかと店を出れば、道玄坂沿いは、さっきより人通りが多くなっていた。
『美月』は、あれからなにも言わない。
浩二にしてみれば、『美月』の話は自分と重なるところが多かった。
だからつい口を出してしまったけど、また踏み込みすぎてしまったかもしれない。
隣を歩く『美月』の表情は晴れないし、むしろ暗くなった気さえする。
(……余計なお世話だったか……)
浩二はわからないくらい小さなため息をついて、遠くに見える駅ビルに目を移した。
交差点の信号を待っていると、ふいに声が聞こえた。
「……私、今度、元彼と一緒に仕事をすることになったんです」
浩二は俯き気味の『美月』を見やった。
彼女はぽつりと、「元彼と、同じ職場なんですよ」と続けた。
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