67/77
前へ
/399ページ
次へ
抑揚ない声とは対照的に、彼女の瞳は今にも崩れ落ちそうだった。 『そんなことないよ』 『そんなのは思い過ごしだって』 浩二の脳裏に、安っぽい言葉が浮かんでは消える。 本当のことはふたりにしかわからないと、適当に流す選択肢もあった。 けれど浩二は、『美月』に付き合うと決めていたから、そんな気になれない。 言葉が見つからず、無意識に視線を前に移す。 すると浩二の目に、映画館の看板が映り込んだ。 (あ………) そこは半年前、失意の中訪れた映画館だった。 苦い記憶が頭を掠めると同時に、浩二は「あれだ」と思った。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加