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抑揚ない声とは対照的に、彼女の瞳は今にも崩れ落ちそうだった。
『そんなことないよ』
『そんなのは思い過ごしだって』
浩二の脳裏に、安っぽい言葉が浮かんでは消える。
本当のことはふたりにしかわからないと、適当に流す選択肢もあった。
けれど浩二は、『美月』に付き合うと決めていたから、そんな気になれない。
言葉が見つからず、無意識に視線を前に移す。
すると浩二の目に、映画館の看板が映り込んだ。
(あ………)
そこは半年前、失意の中訪れた映画館だった。
苦い記憶が頭を掠めると同時に、浩二は「あれだ」と思った。
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