68/77
前へ
/399ページ
次へ
「……美月さん、映画観ない?」 視線を先にしたまま尋ねると、『美月』は「え?」と浩二を見上げた。 唖然とした顔が、視界の端に映る。 (……そんな顔をされても、無理ないか) さっき話していたのと全く無関係だし、当然といえば当然だろう。 けど浩二だって、考えなしに言ったわけじゃない。 『美月』がいろいろと吐き出しているのは、ふたりのやりとりを終えるつもりだからとわかってる。 だけど浩二は、『美月』とここで終わるつもりはない。 駅まではあと数分。 心を軽くするような言葉は、まだ思いつかない。 けどこのまま別れれば、ひとりになった時、『美月』がどんな気持ちになるのかわかっている。 そこで思いついたのが、映画だった。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加