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『美月』は、しばらく立ち止まったまま動かなかった。 やがて仏頂面で浩二に近付くと、「……私の観たいものでいいんですか?」と尋ねた。 浩二が頷けば、『美月』は一枚のポスターを指差す。 「なら……これがいいです」 それは偶然、浩二が観たいと思っていた映画だった。 「……スケールアウトか」 ミステリー小説を映画化した、最近の話題作だ。 「それ、ちょうど俺も観たいと思ってたんだ」 「へぇ。そうなんですか。 なら行きましょう、ミヤサカさんが奢ってくれるんですよね?」 刺を含ませる『美月』は、浩二を横目に見ると、さっさとエレベーターへ向かってしまう。 その様子から、また機嫌を損ねたようにも見えた。 けど、浩二は『美月』の性格を掴みつつあるし、たぶんだけど、怒ってるわけじゃない。 (……気晴らしになればいいけど) 浩二は小さく息を吐き出して、『美月』の少し後を歩いた。
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