4688人が本棚に入れています
本棚に追加
『美月』は、しばらく立ち止まったまま動かなかった。
やがて仏頂面で浩二に近付くと、「……私の観たいものでいいんですか?」と尋ねた。
浩二が頷けば、『美月』は一枚のポスターを指差す。
「なら……これがいいです」
それは偶然、浩二が観たいと思っていた映画だった。
「……スケールアウトか」
ミステリー小説を映画化した、最近の話題作だ。
「それ、ちょうど俺も観たいと思ってたんだ」
「へぇ。そうなんですか。
なら行きましょう、ミヤサカさんが奢ってくれるんですよね?」
刺を含ませる『美月』は、浩二を横目に見ると、さっさとエレベーターへ向かってしまう。
その様子から、また機嫌を損ねたようにも見えた。
けど、浩二は『美月』の性格を掴みつつあるし、たぶんだけど、怒ってるわけじゃない。
(……気晴らしになればいいけど)
浩二は小さく息を吐き出して、『美月』の少し後を歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!