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「それなら、よかった。
この間も映画観たって言ってたし、美月さんは映画が好きなの?」
なにげない質問に、『美月』は眉間にしわを刻んだ。
「……たまに観るくらいです。
っていうか、嫌なこと思い出させないでください」
(え……?)
浩二は一瞬、なんのことかわからなかった。
けど少しして、『美月』が前の面会で映画を見たのを思い出した。
(―――あぁ、そういや散々だって言ってたっけ)
あけすけなメッセージのやりとりを思い出し、浩二はそれが禁句だったとわかった。
肩を竦めてシートに座り直した時、『美月』は独り言のように呟いた。
「……けど、今みたいにイライラしても、ミヤサカさんには言えるから楽です。
ほかの人には、こんなこと絶対に言えませんから」
その言葉に、浩二は無意識に彼女を見やった。
瞳に映る横顔が、微かに緩んでいる。
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