77/77
前へ
/399ページ
次へ
泣き顔を見られたくなくて、すぐ顔を伏せたからはっきりわからないけど、なんとなく今の『美月』と似ているような気がした。 ぼんやり記憶を辿っていた時、ふいに消えそうな声が聞こえた。 「……ごめんなさい。 先に、出ててもらえませんか」 『美月』の声は弱々しくて、震えていた。 浩二は少し迷った後、ゆっくり首を横に振った。 「急がなくていいよ。 落ち着くまで待ってるから」 『美月』はなにか言いたそうにしていたけど、やがて瞳を伏した。 ひとりの世界に籠ろうとしているのかもしれない。 それから長い間、『美月』は身じろぎひとつしなかった。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加