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部屋で泣きたくないとはいえ、街中で泣くなんてみっともない。 かといって、ひとりカラオケボックスに入るのは虚しいし、雑居ビルの片隅だって同じだ。 瑞希は適当な場所を考えた。 その結果、思い至ったのが映画館だった。 泣ける映画を見ているふりをして、思い切り泣いてやろうと決めた瑞希は、レイトショーに滑り込み、映画が始まると同時に声を殺して泣いた。 振られた相手を追いかけるなんて、情けない女みたいでプライドが許さない。 だから映画が流れている間に涙を流し切って、和明のことなんて忘れて、映画館に行き場のない気持ちを置いていこうとした。 和明への気持ちが完全に置き去れたのかはわからないが、一度決めたらあとは突き進むだけで、それからの瑞希は、自分を叱咤して仕事に没頭した。 年度末の忙しさが、この時は幸いしていた。
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