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瑞希がここに来たのは、映画を見たかったからじゃない。
明かりの灯らない部屋でひとりで泣きたくなくて、涙を流してもだれも気にしない場所を選んだというだけだった。
だから、映画が始まってからずっと泣いていた。
もうじゅうぶんに泣いたのに、涙はあとからあとから溢れて止まらない。
瑞希は消えそうな息をついて、目に当てたタオルを外した。
さっきよりも視界がはっきりとしているけれど、気を抜くとまた泣いてしまいそうだった。
瑞希の瞳に、ようやく立ち上がった男の背が映り込む。
けれど彼は立ち上がってもなお、しばらくの間その場に立ち尽くしていた。
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