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瑞希はおなかに力を入れて、なんとか声を絞り出す。
「仕事の電話なんでしょう。
私のことはいいですから、電話に出てください。
先に会計を済ませて、外で待っていますから」
気丈に振る舞うと、彼は眉を下げて瑞希を見返した。
「……でも」
「急ぎの連絡だから今なんでしょう。はやく」
「……けど」
ミヤサカは苦しそうだ。
それでも瑞希が小さく頷いたことで、彼は「ごめん」と言い残して席を離れた。
彼がいなくなると、瑞希は数秒の間放心していた。
自分もこの場を抜け出したい。
なのに、聞こえてくる笑い声に力を奪われて動けなかった。
後ろふたりの声が途切れた時、瑞希は鞄とテーブル下に差し込まれた伝票を掴んだ。
靴に足を入れ、立ち上がろうとした瞬間、隣の席からだれかが降りてきたのがわかった。
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