54/69
前へ
/399ページ
次へ
瑞希は咄嗟に顔を隠そうとした。 けれどそれよりも早く、相手が瑞希に気付いた。 「あれっ……芹澤さん?」 名を呼ばれ、全身が強張る。 頭の中が真っ白になって、この場から逃げ出したくなった。 声の主は、和明ではなく話し相手のほうだった。 (大丈夫、大丈夫……) 崩れ落ちそうな表情を無表情で覆い隠して、顔をあげる。 瑞希を見下ろしていたのは、営業本部の住井だった。 「……住井さん、お疲れさまです」 「やっぱり芹澤さんだったんだ。 まさか隣だなんてびっくりしたよ。 今日はだれかに会うような予感はしたんだけど」 なにがおかしいのか大笑いする住井に「そうですね」と心のない相槌を打った時、和明の姿が瞳に映った。 完全に固まっている彼と目が合わないように、瑞希は思い切り視線を逸らした。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加