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瑞希は咄嗟に顔を隠そうとした。
けれどそれよりも早く、相手が瑞希に気付いた。
「あれっ……芹澤さん?」
名を呼ばれ、全身が強張る。
頭の中が真っ白になって、この場から逃げ出したくなった。
声の主は、和明ではなく話し相手のほうだった。
(大丈夫、大丈夫……)
崩れ落ちそうな表情を無表情で覆い隠して、顔をあげる。
瑞希を見下ろしていたのは、営業本部の住井だった。
「……住井さん、お疲れさまです」
「やっぱり芹澤さんだったんだ。
まさか隣だなんてびっくりしたよ。
今日はだれかに会うような予感はしたんだけど」
なにがおかしいのか大笑いする住井に「そうですね」と心のない相槌を打った時、和明の姿が瞳に映った。
完全に固まっている彼と目が合わないように、瑞希は思い切り視線を逸らした。
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