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何事かと振り向いた瞬間、静かな部屋に小銭が散らばる音が響いた。
浩二の目の前をコロコロと小銭が転がっていく。
それが自販機の下に入ってしまい、浩二は膝を折って自販機の下を覗いた。
少し先に百円玉が見えているけど、狭くて手が届かない。
その様子を見ていた女子社員は、慌てて彼の隣にかがんだ。
「あの! もういいんです、すみません」
「そこに見えてるんだけど……」
「とれないんだ、ごめん」と浩二が眉を下げて立ち上がった時、カチャンカチャンと自販機から音がした。
そういえば小銭を入れてから、ボタンを押していなかった。
浩二は釣り受けに落ちた小銭をもう一度入れ、かがんだままの彼女に言った。
「これで買って」
「え、でも」
「もう俺は買ったから」
自分のぶんはついでだったし、原田のさえあれば特に問題ない。
それに急いで帰らないとまた文句を言われるだろう。
浩二は「じゃあ」とその場を離れ、休憩室を後にした。
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