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「早くいけよ、この色男が」
「なんだよ色男って」
神崎にも背中をバシッと叩かれ、好奇の視線にさらされながら戸口に近付く。
開いたドアからこちらを見ていたのは、休憩室で小銭を落とした女子社員だった。
(あぁ、あの時の……)
傍に寄るなり、彼女はぺこりと頭を下げた。
「あの、この間はありがとうございました」
「いや、俺はなにも」
言いながら、浩二はまわりの視線を逃れるように廊下へ出た。
「っていうか、よく俺がここにいるってわかったね」
あの休憩室を使うのはうちの社員だけだけど、だからといって名乗りもしなかったし、探し出すのは容易じゃないはずだ。
後ろ手でドアを閉めて向き直ると、彼女は照れたような笑みを浮かべた。
そして持っていた小さな紙袋をすっと差し出す。
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