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あぁぁぁぁ。
生理現象とはいえ我慢できなかった自分を責め、今度は恥ずかしさに身を震わす。一方、青年はキョトンと目をしばたかせた後、弾かれたように笑いだした。まるでさらさらと、降る雨のような笑い声だった。
「からかい甲斐のある人だな」
含み笑いを残したまま、巻いていたアントラチーテのストールを外し、スラリとした躰を屈ませ、前にしゃがみこむ。そして肩越しに手を回すと、冷えた肌を温めるようにふわりとコウの肩にかけ、
「おめでとう」
そう言って、静かに微笑った。ストールに籠っていた彼の熱が移り、じんわり浸透していく。
「あ…?ありがとうございます」
色んな意味合いで、恥ずかしさから首をすくめ、尻つぼみのお礼を小声で述べる。青年は立ち上がり、枝がしなりそうなほどに咲き誇るハクモクレンに視線を戻し、全身で花の光を浴びるかのように目をつむった。
「同じ時に生まれたんだな」
ツキン
何てことない一言に、胸が痛んだ。花じゃなく、そこを通り越して、どこかもっと遠くを見つめるようなその姿に、心の奥の方がザワザワした。
この感情は、何?
先ほどハクモクレンに対して感じた熱いものが、下からぐーっと突き上がってくる。下唇を噛みしめて、かろうじて何かを留めた。美しさには憂いが内在するという。あぁ、たぶん、きっとそれだ。頭痛いし、彼の見た目に引っ張られてるだけ。熱を持ったこめかみに、再び手を押し当てると、それに気づいた青年が同情するような口調で問いかけた。
「大丈夫?」
「あぁ…ちょっと、酔っただけなんで」
「顔色が良くない」
「問題無いです。しばらくしたら、治ります」
「会場はひどい空気でいっぱいだったからな」
その応えに、驚いて顔を上げた。酒に酔う、という意味で捉えられると思っていたし、それを望んでいたから。空気に酔う、というコウの示す本来の意味で捉えられるとは思っていなかった。
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