チャイム

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「え?」  友達の家からの帰り道。アタシは、普段ならこの近所にいる筈のない人と遭遇した。 「町田先輩?!」 「あれ、村井じゃん」  そこにいたのは同じ吹奏楽部の町田先輩だった。  町田先輩は吹奏楽部の部長で、面倒見の良さから男女問わず後輩に慕われている人だ。だけど、残念ながら部活は夏休み前に引退してしまっているので、現在の肩書きは元吹奏楽部部長の現役受験生。…つまり、一つ下のアタシとしては、普段は学校にいても滅多に会うことのできない人。  その人に偶然でも会うことができて、アタシは心の中でかなり舞い上がっていた。 「先輩、どうしてここにいるんですか? …あ、もしかして」 「そ。受験勉強の息抜きがてら、散歩を兼ねてちょっと下見。村井は…確か、家、近くなんだよな?」  町田先輩が松風高校を第一志望にしてるって話は、まだ引退する前に先輩から直接聞いたことがある。その時に、我が家はここの道一本挟んだ所にあると、そんな話をしたことがあった。  先輩の受験話に絡めて口にしただけの情報を、まさかいまだに覚えていてくれたなんて!  舞い上がった心がさらに浮上する。  先輩にとってアタシは単なる一後輩。だけど少しは気に留めてくれているのかな? なんて自惚れがチラリ。  結局この時はそんな世間話だけで別れたけれど、学校の外で先輩と話すことができたっていう幸せの記憶は、ずっとアタシの中に残った。  そして数か月。  先輩は見事に志望校に合格した。  その報せを受けたのは部活のライングループ内で、みんなに混ざっておめでとうごさいますの言葉を送ったけれど、アタシは少し寂しかった。  これだけのやりとでお祝いが済んでしまうアタシは、先輩にとってやっぱり一後輩。それ以上でもそれ以下でもない。  判ってたつもりだけど、そう思えば思う程悲しくて、気づくとアタシは先輩個人に向けてメールを送っていた。 『合格おめでとうございます。…でも、先輩と会えなくなるのが寂しいです』  返事はすぐに来た。 『ありがとう。実は、俺も村井と会えなくて寂しい。また同じ学校に通いたいから…来年の受験、頑張って』 『追伸 もちろん俺も協力する』
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