そのとき、十年後では

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ソファーに座っていた妙齢の女性は、小型の電子端末を机に置いた。 小さく息を吐く彼女に、ホットココアを両手に持った男性が近付いてくる。 「どうしたんだい?」 彼は一方のカップを女性に差し出すと、彼女の隣に腰掛けた。 「ん? メールの本文を考えるのって意外と苦労するわー、って思ってさ」 男性から受け取ったカップに口を付けつつ女性が云う。 「ああ、十年前の君にかい?」 「そう。短くなっちゃったけど、あの頃の私は被害妄想激しかったから、多分信じるでしょ」 女性は一笑した。 「結局何のために送ったんだい? そろそろ教えてくれても良いだろう?」 男性は女性の顔を覗き込む。 「うーん、そうねぇ。……初彼に部屋を見られてドン引きされたくないでしょ? そういうことよ」 「っああ、なるほどね」 男性はくくっ、と声を洩らした。 「これで、僕にドン引きされるのは避けられそうかい? ――美優」 「うーん、そうね。多少はマシになるんじゃないかしら?」 二人は仲良く寄り添ったまま顔を綻ばせていた。
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