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パソコンの画面から天井に向かってゆっくり視線を上げながら、チラッと横目で山野の方を見る。
欠伸をしながら少し勢いをつけて椅子の背もたれにドンと背をあずけた。
「やっとできましたか?」
山野がかなり苛立った口ぶりで言った。
「いや・・・、まだ。」
「何をやってんですか?会議まで後2時間しか無いんですよ。チェックする時間もないじゃないですか。その資料が無いと会議にならないことくらい分かってますよね!?」
「そう、で、す、か?こんな資料・・・」
と、言いかけてやめた。わざわざ火に油を注ぐこともないだろう。
「ちょっとトイレ。」
パソコンに向ってつぶやく様に言ってから僕は席を立った。
山野は僕の2年後輩で、奴が入社した頃はよく一緒に飲みにも行ったし、遊びにも行った。
一番かわいい後輩だと思っていたし、一番頼りにされているとも思っていたが・・・。
奴は入社3年で係長、5年で課長。今は僕の直属の上司。
「あの人は、私が面倒みなきゃ行く所がないんだよ。」
なんて、あちこちで言っていることも知っている。
僕はドアを出て廊下を右に行く。トイレは反対の左。
突き当たった所の階段を1フロア下りたら喫煙ルームがある。
出世を目指す小うるさい奴らは、ここに寄り付こうとはしない。
会社の中で僕が一番落ち着ける懐かしい場所だ。
しかし、ここも来月には無くなってしまうのだ。
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