第4章 約束

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 ふたりはハーレー家に着くと,さっそく台所を占領して作業を始めた。シアトル滞在の最後の夜をホームステイ先で過ごすことは,最初からプログラムに組み込まれていた。優志と遼は最後の夕食を自分たちで準備することを付け加えた。感謝の意を表すためだった。  優志と遼は,ぎこちない手つきで,しかしそれなりの勢いで調理を進めた。たまねぎを炒めたいい匂いが家中を漂うと,ハーレー家の人々がひっきりなしに台所を覗きにきた。 ブライスもジャガイモの皮むきに手を貸した。皮をむきながら,台所の中央にあるテーブルを挟んで忙しく動き回る優志を眺めるのは,ちょっとした刺激だった。 ―優志の後ろ姿って俺好みなんだな…  4時を過ぎ,食事の準備が整った。ふたりが作ったのは,バターライスにビーフカレー,それにヒレかつと大きめのエビのソテーを選べるようにしていた。崩した豆腐をのせたシーフードサラダもたっぷり用意し,ドレッシングは醤油ベースの和風のものだった。デザートはゆるめに固めたミルク寒天のブルーベリーソース添えだ。  ジョーンズ夫人も顔を見せて,食堂には8人で賑わっていた。みな,口を揃えてふたりの作った料理をおいしいと褒めそやした。 「このカレーの作り方のレシピを教えて欲しいわ,優志」 「いいですよ,ジェーン。ルウのパッケージに書いてあるもの以外に必要なものがあるから…」 「家によってちょっと違うよな。優志がニンニクを入れるのには驚いた。うち,母親がニンニク苦手なんだ」 「その代わり赤ワイン入れるなんてな…」 「飲んで残ったやつな…」  大量に用意したつもりだったが,食事が終わる頃にはほとんど残っていなかった。感謝ディナーが大成功で優志も遼もほっとした。そして最後の片付けまで心を込めてやり遂げた。  6時を過ぎてみなで庭に出た。涼しさが増し,誰にも夏が終わりに近づいているのが分かった。    優志と遼と2家族は,4週間の出来事を語り合い,この夏を共に過ごすことができたことを互いに感謝し,再会を誓い合った。温かく優しく寂しさが混じった時間が流れた。
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