第4章 約束

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少し怖がるボウをボートに乗せるのは,桟橋から受け取るブライスにはちょっとした恐怖だった。無事に乗ってしまえば,あとは優志の脚の間に大人しくまるまっていた。  夕陽が湖面にきらきらと反射して,湖面でシャンペンが弾けているようだった。湖のあちこちに3,4艘ボートが見える。遠くにモーターボートの音が聞こえた。 優志は,目の前のブライスを見つめていた。白いTシャツにベージュのハーフパンツ。アディダスのスニーカー。ありふれた黒いサングラス。ごく普通のアメリカ青年だ。 ―そのサングラスを外さなければね…  何度もブライスの瞳について考えた。どうして自分は彼の瞳にこだわるんだろう。初めて声をかけられた時からそうだ。気になって見てしまう。親しくなってから,近くでずっと見ているけれど飽きることがない。 「ここでいいかな。いつもの場所」 ブライスがオールを湖面から引き上げた。優志はブライスの方に移動し,船底に張られた板の上でブライスの脚の間に収まった。いつもの通りに。ボウも移動して優志の脚の間に収まった。  ブライスが腰に巻いていたパーカーを羽織った。 「優志,毛布代わりがあっていいな」 「寒い? ブライス…」 優志は上半身を捻ってブライスを見た。口角を上げて笑ってる。何を言うか想像がついた。 「暖めて…って言うと思っていただろ? 言わなくても伝わるから,俺たち逆にコミュニケーション不足になるかもな」 「ん。でもきっとそれがまずいんだ。罠なんだ。気を付けないと」 「分かった。じゃあ,優志が想像してないようなことを伝えるよ。俺が今優志をどうしたいか,詳しく…」 「それはいいから,ブライス…」 優志はブライスからサングラスを外した。瞳には自分が映り込んでいた。 「ちょっと,水面を見て。 ああ,すごいな… amazing...」 いつもはグレーの虹彩に,夕陽を反射する薄い黄金色が静かに弾けるようだった。優志は息を止めて見入った。見ている間に興奮していた。  優志は唇を近づけた。近づき過ぎると肝心の瞳が見えない。自分の目を閉じると,さっきまで見続けたあの瞳が蘇る。そのまま唇を合わせ,ゆっくりとブライスの口中を探った。
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