第2章 湖水

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-ハッハッハッ…ゥオン…- 翌日,妙な息づかいと重みで苦しくなった優志が目を覚ますと,Beau (ボウ)が半身を優志に預け,前足を優志の両肩に乗せていた。ハーレー家のゴールデンレトリバーだった。 驚いたが,犬好きの優志はボウをぎゅうっと抱きしめた。時計を見ると6時半だった。  ハーレー家の二女エリンと優志は自転車に乗ってボウを散歩に連れ出すことにした。慣れているからとエリンがボウのリードを持った。 ハーレー家と大学の中間ぐらいの湖からは離れた場所に,フェンスで覆われただだっ広い公園があった。少しの遊具があるだけであとは草原だった。誰もいないのを確認して,エリンはボウのリードを首輪から放すと,ボウを好きなだけ走らせた。ボウは自由になった喜びを満喫して公園を駆け回った。しばらくしてから優志はボウとフリスビー遊びを始めた。ボウと同じくらいエリンも優志も楽しんだ。30分ほどしてから優志たちは公園を後にし,自動車の通らない小道を選んで家に向かった。 「あ,ユウシ,ちょっと待って」 公園からほんのちょっと進んだところで,エリンが自転車を降りた。そして道の脇の繁みに寄るとそこから指で何かをつまみ始めた。いぶかしげに見つめていた優志に,にっこり笑ってエリンが摘んだものを見せた。 「ほら,おいしいのよ」  ブルーベリーだった。小道沿いの繁みが全てブルーベリーの灌木だった。エリンは手の平から1つずつつまみ上げては口の中に放り込んだ。優志も濃紺の小さな果実の味見をした。プルンッと実が詰まって張り切ったものを摘んで口に入れると,酸味が勝った野性味のある味わいだった。 エリンは繁みに向かって何やら口ずさみ,それから小声でまるで目の前に誰かがいるかのように話し始めた。そばでボウが怪訝な顔をしてしゃがんでいた。 ―ははぁ,妖精と話し始めたんだな-  優志にはエリンと同じくらいの歳の従姉妹がいた。その子が草花を前に同じことをしていたから分かったのだった。エリンは,茶色に近い短い金髪で笑うと前歯のすきっ歯がとても可愛らしい10歳の少女だった。そして彼女自身が妖精のようだった。
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