第4章 約束

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翌日,日本人学生らはホストファミリーに送られてシアトル・タコマ空港に到着した。搭乗手続きをして,それぞれの家族と名残を惜しむ。 「ユウシ,来たときより日に焼けたわね」 「喜ばしいことだ。シアトルを満喫したっていう証拠だからね」 ハーレー夫妻が優志を見てしみじみとしていた。 「みなさん,本当にありがとうございました。おかげで素晴らしい滞在ができました」  一人一人と抱擁を交わし,感謝した。 「ユウシ,おみやげあげるよ。今朝,摘んできたの」  エリンが差し出しのは,可愛いビニール袋に入った10粒ほどのブルーベリーだった。 「ありがとう,エリン」  出国審査で引っかかるかもしれないから,その前に食べようと思った。すると,やんわりと誰かに腕を引かれた。ブライスだ,と直感した。 「優志,それどうするの?」  振り向くと,シャツにジーンズ姿のブライスがいた。白地に青いピンストライプのシャツだ。薄いグレーのサングラスをしてる。遼を下ろして車を駐車場に入れてきたのだろう。 ―最後まで格好いいな。 「ブライス…おはよう。出国前に食べようかなって思ってた」 「そうか。ん,ちょっと来て…。リョウ,俺と優志は手洗いに行ってくるよ」  後ろにいた遼とアセナが返事をする間もなく,ブライスは優志の腕を引いて進んだ。足早に進むふたりに他の誰も声を掛けられなかった。  しばらくして,そろそろ出国審査ゲートに進もうかという頃になって,いつの間にか優志が遼の後ろにいた。気配を消して近づいていたかのようだった。 「うわっ,優志,びっくりした。遅いからちょっと心配してたよ。何かあったのか?」 「いや…シアトルのトイレを堪能してきた」 「は?」 「あ,ユウシ,もうブルーベリーを食べちゃったのね。口の中がむらさき~」 「…あそこの役人に取られたらいやだから,先に食べちゃったよ。おいしかったよ,エリン」  エリンが嬉しそうににっこり笑った。セアラがその横できょろきょろして,やっと自分の後方にお目当ての人間を見つけた。みんなからちょっと離れた所の柱に寄りかかっていた。  セアラに見つかったと分かると,ブライスはぺろっと舌を出して見せた。セアラはそれを見てにやりとして,右手の親指を上げた。
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