第4章 約束

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 4人の日本人学生が出国審査の列に並ぶ。女子のほうが名残惜しがるだろうと,男子ふたりが先に並んだ。  人混みをかき分けてアセナとその後ろにブライスが近づいてきた。優志はもう言葉を発することができない状態だった。 「リョウ,ユウシ,気をつけてね。家に着いたら連絡ちょうだいね。楽しい夏をありがとう。また会いましょうね」 最後の言葉を言ってから優志を見つめて頷いた。優志もただ頷くことしかできなかった。 アセナはブライスに場所を譲った。 ブライスはサングラスを外した。少し目が潤んでいた。 「俺にとってもいい4週間だった。日本でしっかり学んで俺に追いつけよ」  それから優志にすいっと近づいて耳元に囁いた。 「俺に最高の後ろ姿を見せて。優志の後ろ姿が俺の今晩の…」 「ばかっ!」  優志はブライスの肩を押しやった。こんなしんみりした場面で何てことを!と息を荒くしていると,ゲートに進む順番が来た。優志は最後にブライスを振り返った。  笑顔だった。かっこいい笑顔だった。優志も笑顔を作ろうとしたが,泣き笑いができただけだった。 そうやってふたりは別れた。 搭乗ゲートまで来るともう見送りの人たちの姿を見ることができない。言葉少なに椅子に座ると,遼が声をかけてきた。 「優志,お前,しんどそうだけど…」 「…ああ,考えてた以上に,ダメージきてるみたいだ。ごめん,大丈夫なんだけど,日本に着くまでは…」 「分かった。なんかあったら,遠慮無く言えよ」 「ありがとう,遼」  何をどうしたらいいのか,全く分からなかった。取り敢えずみんなと同じ行動をしたらいいのだ,と思うことはできた。 ブライスと会えなくなるという思いで頭がいっぱいになり,大声で叫び出したくなる。不安でじっとしていられない。自分はブライスのところに戻らなくてはならないと立ち上がって,でもどこに向かえばいいのか分からず,両手で顔を覆った。 「優志,優志…そろそろ搭乗が始まる。行こう」  何か言おうとすると嗚咽が漏れそうな気がして,優志は口を閉じて頷いた。ディパックを背負い,歩きだそうとした途端,視界が歪み床が平面でなくなって歩けなくなった。 「歩けないのか?…優志,俺につかまって…そう。行くぞ」  遼の腕にすがり,遼に腰を支えてもらいながらゆっくり進んだ。歪んだ視界のまま足を交互に繰り出す。
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