第2章 湖水

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 ワシントン大学の外国人工学部生向け夏季講座には,優志と遼を含め6人の日本人学生が参加していた。そのうちの4人は,日本の旅行会社が企画したホームステイ付きのパックを選んでいて,期間の最初の10日間をアメリカ人家庭で過ごすことになっていた。滞在3日目の今日は,中川麻衣子という学生が滞在しているウィリアムズ家でバーベキューが催され,日本人学生とそのホームステイ先の家族が招待されていた。家はワシントン湖に面した場所にあり,家からすぐに目の前の湖に入ることができた。    ブライスが車を道路脇に寄せ,ジョーンズ夫人が携えていた手料理や飲み物をみんなで分担してウィリアムズ家に向かった。ぐるりと生け垣に囲まれた敷地は広く,床を高くした平屋の南欧風の広い家が建っていた。ウィリアムズ家の人々とひとしきり挨拶を交わしたあとは,庭の隅に用意された巨大なバーベキュー用の網から好きなものを取って食べるように促された。  優志は遼と食べ物を取りに向かって,ふと後ろを振り返った。ブライスがウィリアムズ家の娘のジェニファーと一緒にいるのが見えた。ブライスは穏やかな表情をしていて,彼女は上気した様に目を輝かせてブライスに熱心に話しかけていた。優志はすぐに視線を食べ物に戻し,遼と肉選びに取りかかった。  程なくしてブライスがジェニファーを伴ってやって来た。彼女は波打つ金髪に陽に焼けた肌をしていた。細心の注意を払って手入れした,彼女が最も美しく見えるような肌だった。 「ジェニファー,リョウとユウシは君と同じく大学2年だ。将来アメリカの大学に留学するから俺の将来の同僚ってわけだよ」 ブライスの言葉には優志たちを仲間扱いしている雰囲気が感じられた。 「素晴らしいわね。そしたらブライスのいる東部の大学に来るの? 私はボストン大学なんだけど,いい大学がたくさんあるわ」 「え?…いや東部は考えてなくて。ワシントン大学がベストかなって…」 優志は慌てて生真面目にそう返した。 「あら,そう。…あ,食べ物,あなたたちの気に入るといいんだけど。何か足りない物があったら遠慮なく言ってね」 「どれもおいしそうだし,十分足りてるから大丈夫」
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