第2章 湖水

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月曜日からは講座が始まる。最初の一週間は,英語を日常的に用いない学生向けの授業で,実際は日本人6人だけが受講することになっていた。 「ユウシ,大学まで俺が送り迎えするよ。リョウを乗せていくんだから,同じだよ」 「申し出は嬉しいんだけど,俺,できるだけ生活している感覚を得たくて…。中学生の時に行ったフロリダではほとんど車移動だったんで,ちょっと物足りなかった。ここではドクター・ハーレーが自転車を貸してくれるし,自分の力で通いたいんだ。」 「宇宙工学やってるのに,地に足の着いたやつだな。じゃあ,明日の午後に」  ブライスはにこやかだった。後部座席で遼はうたた寝していた。  講座が始まった。工学部の建物にある小さな教室が使われた。午前中は工学の基礎的な用語を扱ったテキストを使って,ほぼ英語の読解のレッスンだった。午後は実習室で,工学部の授業で広く使われる実験道具や機器を実際に手にしながら,その扱い方の説明を聞き,交互にデモンストレーションする授業だった。どちらもインド系の先生が指導者だった。 内容は基本的で,みんな頭では理解しているが,日本人故に英語で説明するのに四苦八苦した。先生は慣れれば全員十分やっていけると言ってくれたが,予習復習はちょっとした分量だった。さらに金曜日には確認のテストがあることを発表してみんなを固まらせた。   授業が終わると優志は自転車で,遼はブライスの車でジェニファーの家に向かった。ブライスは自分のウィンドサーフィンの道具をジェニファーの家の車庫に入れさせてもらっていた。優志たちはジェニファーの家から借りることにしていた。  3時過ぎから5時半までブライスからみっちりとレッスンを受ける。それからどちらかの家に行って講座の復習。ジェニファーの家で麻衣子を交えて復習することもあった。どこであってもブライスがアドバイザーとして同席してくれた。 夕食の後は一人で深夜まで勉強を続けた。  金曜日,確認の筆記テストと基本的な実験のデモンストレーションは全員パスした。指導する先生は個々に弱点を告げて週末の復習を促してくれた。 優志はかなりいい成績でパスし,先生は日本人学生のリーダーとなるよう期待してると告げた。
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