第2章 湖水

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「なぁ,俺,今日のウィンドサーフィン,パスしていいか?講座のみんなが街に出かけるのに誘われててさ。お前も行かない?」   帰る準備をしているとき,遼が少し興奮気味に声をかけてきた。優志も今朝,麻衣子ともう一人の女子から誘われていた。 「…俺はやめておくよ。いつも通り湖に行く。今日は授業の復習もいらないし,お互いのんびりできるな。楽しんで来いよ」 ジェニファーの家のビーチで優志はブライスと合流した。日差しが暖かく,微風の気持ちよい午後だった。ウィリアムズ夫人とジェニファーの弟がビーチチェアでくつろいでいた。 「ブライスのおかげで,テストの成績はとても良かったよ。ありがとう」 「どういたしまして。でも優志には俺の助けはほとんどいらなかったけど」 「そんなことない。じゃ,ウィンドサーフィンもお願いします!」 「リョウは羽を伸ばしに行ったし,ユウシと一週間のレッスンの総仕上げとするか」 前日までに優志は何とかブライスと併走できるようになっていた。二人は簡単なプレーニングといった感じでセイリングを始めた。ボードとセールの向き, ブームの扱いなど,先を進むブライスを真似て必死でついて行く感じではあったが,優志は徐々にスピードを上げ左右に進路を変えながら進んだ。 気分は爽快でとても楽しかった。風の力で湖面を滑る感覚に神経が高ぶるのを感じた。セイルを操作しながら、その向こうに目を向けては, 広大で波穏やかな湖と周囲の美しい風景にただ感嘆していた。 優志は右前方を進むブライスを見た。 今更ながら肢体の格好の良さにどきりとした。サンドカラーの髪の毛が光を浴びて銀色に輝いていた。時折、優志を振り向いて、ブライスはにっこりと微笑む。 その度に優志はブライスの好意を感じて嬉しくなった。 -綺麗で,強くてしなやかで,繊細な人だ- 二人は,湖を大きく二度旋回して桟橋の近くに戻って来た。長時間のセイリングで優志の全身が強張っていた。特に腿は緊張しきっていた。 ブライスが桟橋の手前でくるりとボードを方向転換させてこちらを向いた。優志は笑顔で何かを言おうと口を開いた。 優志が言葉を発する前に,ブライスが「あぁっ」と声をあげて,大げさに身体を傾けてブームから手を離した。そうしてふざけてる顔のまま上半身から水中に落ちていった。
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