第2章 湖水

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二人は水面に顔を出すと大きく息を吸った。しばらく呼吸を整えるように息を吸っていたが,徐々に優志は手の力を緩めて,やがてブライスの肩口に手を乗せるだけになった。 「ユウシ,大丈夫か?」 返事はなかった。ブライスは優志の表情を読み取ろうとしたが,優志の目は焦点を結ばず,呼吸はまだ完全には整っていなかった。 「…はぁ,はぁ…,ん…大…丈夫」  ようやくそう答えた途端,彼の身体が震え始めたのを,ブライスは肩口に置かれた彼の手を通して感じた。震えは徐々に激しくなってきた。 ブライスはただ事ではないと考えて, 桟橋の横に作り付けられたハシゴを上らせた。ウィリアムズ親子がそこに辿り着いていて,息子が優志の手を引き,母親が身体を受け止めた。 「どうしたんでしょう,こんなに震えて…」 ブライスは優志をビーチまで連れて行くようウィリアムズ夫人に頼み,自分はボードの方に戻った。夫人の息子もボードを回収するブライスを手伝った。  ブライスたちが浜辺に戻ると,優志は上半身に服を着せてもらい,いすに座っていた。彼の両手はウィリアムズ夫人の手をギュッと握りしめていた。ほとんど目は閉じられていた。 「ユウシ,体調が悪そうだから,ハーレーさんの家に送っていくよ」  優志は頷いた。顔が強張っていた。  ウィリアムズ親子に礼を述べ,ブライスは車を発進させた。優志は目を伏せて必死に耐えているが,震えはまた激しくなっていた。顔面が蒼白だった。  ハーレー家の1ブロック手前でブライスは車を止めた。それから落ち着いた口調で,優しく優志に話しかけた。 「ねぇ,ユウシ。君はまだ体調が悪そうだし,このままハーレーさんの所に戻っても心配をかけるだけだ。もう少し体調が良くなるまで俺の家で休まないか。1時間くらい休んだらきっと落ち着いて,夕食にも間に合うよ」  優志は震える両手を握りしめて,縋るようにブライスを見た。そしてそっと言葉をはいた。 「どうか、そうさせてください」  ブライスは優志を自宅のリビングのソファに座らせた。まだ5時半を過ぎたばかりで,母親も遼も帰ってはいなかった。ブライスはアイスティーを優志に差し出したが,優志は手が震えてうまく飲めそうになかった。
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