第2章 湖水

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 なぜブライスが自分にそう言うのか分からなかったけれど、優志は嬉しかった。そして,窓から入る西日に,ブライスの瞳が暖かな色を湛えて輝いているのを,ただぼんやりと眺めていた。 ―綺麗な瞳だ。西日のオレンジに染まっている。濃い色の線が花火のように広がっている…  そのあと優志はハーレー家に送ってもらい,翌日もウィンドサーフィンをすることを約束した。優志がそれを望んだ。翌週からの講座は本格的になるので,あまり練習を続けられないのではと考えたのだ。  夜,ベッドに横になり,優志は考えていた。 ―ブライスにはかなり恥ずかしい姿をさらした。おかげで,ずっと胸にしまっていたことを聞いてもらえた。講座の復習もウィンドサーフィンの練習も世話になりっぱなしだけど…ブライスも楽しんでいると思う。 ―友達って考えていいかな。 ―ブライスも俺のことを友達だと思ってくれてるかな。 「はっ,小学生か,俺?」 わざと声に出してみたが,なぜだか自分を嘲る気持ちには全くならなかった。  翌日の優志のスケジュールはぎっしりだった。ボウの散歩,ブライス,遼とウィンドサーフィン。昼食は,シアトルに新しくできた高級ハンバーガー店で。午後からシアトルマリナーズの試合を観て,最後に中心地のシーフード店て夕食。  午前中,遼はウィンドサーフィンをやらず,麻衣子やウィリアムズ家の子供たちとボート遊びをすることを選んだ。 優志は再びブライスとプレーニングに挑んだ。前日よりも自信をもって操作することができた。一度,ブライスを越して優志が前方を滑ることもあった。その爽快感を,優志は一生忘れないだろうと思った。  優志と遼とブライスはそのあと,ほぼ一緒に過ごした。野球や食べ物,経験したこと,考えていること,あらゆることについて話し合い,笑いあった。  ジョーンズ夫人は,こんなにおかしそうに笑っているブライスを見るのは、ここしばらくなかったと,ハーレー夫妻に告げたほどだった。  日曜日は,ホームステイ先を離れて,大学の寮に移動する日だった。優志はハーレー夫妻に荷物を運んでもらい,自分は自転車で移動した。ドクター・ハーレーが講座が終わるまで貸してくれることになった。
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