第1章 出逢い

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今度は目元にも微笑みをたたえてから,ブライスは車を発進させた。優志は佇んだまま車を見送った。たった今見たブライスの微笑に心を奪われていた。  -魅惑的,というのだろうか,彼の目は。あんなアメリカ人もいるんだな…。彼から受けた印象は今まで会ったアメリカ人の誰とも違っている-  優志は再び自転車に乗り,ワシントン湖を右手に見ながら北へと走った。湖の上でウィンドサーフィンや水上バイクが行き来するのが時折見えた。波の穏やかな湖面だから,初心者でも楽しめるだろうな,と優志は思った。 5分ほど走ってから湖に背を向け、 ハーレー家を目指してローレルハーストの坂道を上り始めた。平地から1ブロック半は自転車に乗って何とか上れた。そしてそこからは自転車から降りて押さなければならなかった。前日の夕方,ホスト・ファーザーのドクター・ハーレーと自転車に乗って大学への道のり確認をしていた。その時の帰りは1ブロックで降りてしまったから,進歩だ,優志は思わず一人微笑んだ。  ハーレー家の前に着いたとき,優志は後ろを振り返って坂の下方を見た。  -ああ,きれいだ-  ローレルハーストの家々の赤茶の瓦屋根,家と家をつなぎ合わせるようにぐるりと生えている木々の深い緑,格子模様に走る白い舗装道,そしてわずかな風を受けて生まれたさざ波が太陽の光を反射してきらきら輝いている湖。毎年「米国人が住みたい都市」の上位につけている街。優志はふうっと感嘆の息を吐いてから,自転車を玄関前の芝生の上に止めて,勝手口からキッチンに入っていった。  家にはホスト・マザーのジェーンがいた。背が高く,ふわふわした濃いブラウンの髪の毛と黒っぽい瞳がチャーミングで知的な女性だ。優志がこれから遼のホームステイ先に行く事情を彼女に話すと,じゃあ,と食べ物を探し始めた。ああ,昼なんだ,と優志はそのとき初めて自分が空腹なことに気づいた。
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