第3章 接近

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 優志たちが学ぶ講座が2週目に入り, 内容がより高度になった。韓国,台湾, タイ,インドなどの英語能力の高い学生達がこの週から講座に参加した。クラスは総勢21名となった。  午前中の講義は比較的新しい内容のテキストが用いられ,翌日には小テストが行われた。午後の演習は各国の学生の混合グループで行われ,交代で演習報告をしなければならなかった。 日本人学生は一日の終わりに演習室に集まり,とりあえず大学のコンピュータを使わなければできない作業に取り組んだ。そしてカフェテリアで夕食を食べてから寮に戻り,学習室に当てられた部屋で講義の復習をしたり,翌日の課題のアイディアをまとめたりした。  日本人学生が弱音を吐かずに進められたのは,ブライスの存在が大きかった。寮の学習室の長テーブルに,遼と優志は並んで座ることが多かった。二人の向かい側にブライスは座った。そうして二人が講義を理解しているか確認しつつ,他の日本人学生の質問にも答えてくれた。  日曜日にブライスがゲイであると告げた時,優志は衝撃を受けて言葉が出なかった。すぐに遼が部屋に戻ってき,ブライスは何事もなかったかのようにみんなと食事に出かけた。食事中も帰るときも,優志に思わせぶりな態度を取ることはなかったし,意味ありげな視線を送ってよこすこともなかった。  それは週が改まってからも変わらなかった。ブライスがゲイであることを告げたのは,言い忘れていた趣味を思い出して口にしたようなものだったのではないか。2,3日してから優志はそう考え始めていた。  逆に優志がブライスを意識していた。 ブライスが他の学生と話して屈託無く笑うとき,彼の笑顔から目が離せなかった。 ブライスがテキストを分かりやすく遼に説明するその声に聴き入った。 近くに座って偶然脚が触れ,さっと自分の脚を引きながら、触れた場所に電流が走ったかのように感じた。 優志に課題の進み具合を訊いてくるときの,知的で真摯なまなざしに見入った。 ―まいった。これじゃまるで俺がブライスを好きみたいじゃないか…  優志は自分の反応をコントロールできなくて困惑していた。ブライスに気づかれたら困る,と思った。ブライスがゲイだと知った途端,ブライスを恋愛対象として意識しているかのような自分自身の変化に嫌気を感じた。
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