第3章 接近

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 優志は自分がどんなにブライスを尊敬し,共に過ごす人間として貴重な存在であったかを思い出そうとした。宇宙工学のこと,ウィンドサーフィンのこと,家族のこと…。わずかな期間でこんなに理解し合えた人間は他にいない。 -俺のこと,友人だと思って欲しかったんだ。  優志はすこしずつ落ち着きを取り戻していった。講座の内容が,優志に余計なことを考えさせないくらい十分忙しかったというのもあった。何よりブライスが,特別に優志の気を引くような言動を少しも優志に見せなかったことが大きかった。 憔悴しきった学生達に週末を迎える喜びが見えた金曜の朝食後,遼は優志ににやにやしながらに寄ってきた。 「…遊びに行く計画立ててんだろ」 「おっ,察しがいいねぇ。日本人学生で,近くの学生向けのクラブに行こうって。麻衣子が企画して,全員参加で決まってるんだぜ」 「何時だ?」 「カフェテリアのチケットを無駄にしないよう,夕食後ってことだ。6時半かな。門限の10時まで,結構時間があるから十分だろ」 「わかった。俺は早目に夕食を食べて,ボウの散歩に行く。遅れるかも知れないからクラブの名前と場所を教えてくれ」  優志はハーレー家で土曜日か日曜日の夕食に呼ばれるつもりだった。他に何もなければいつでもおいで,と誘われていた。 代わりに優志はボウの散歩をすると約束していた。講座が始まってから運動不足だったし,ボウと走り回りたくてたまらなかった。今日の散歩を数日前から楽しみにしていた。 午後の演習は早めに終わり,一週間の講評と翌週の大まかなスケジュールが学生に伝えられた。優志は自分達の講評に大体満足していたし,翌週の講座内容にも意欲を感じた。 夕方5時半頃,優志はハーレー家に着いた。ジェーンの陰からボウが飛び出してきて,激しくしっぽを振って優志に突進してきた。優志はよろけながらボウを受け止めた。ジェーンにひと通り講座のことについて報告したあと,ボウの散歩の準備をした。 「エリンはまだ友達の家から帰ってないの。ユウシ一人で大丈夫かしら」 「エリンと散歩に行ったとき,何度かリードを持たせてもらってたから大丈夫ですよ」
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