第3章 接近

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優志はジョギングするつもりで,自転車に乗らずポーチから通りに出た。ハーレー家からちょっと坂を下ったところに男性が立っているのが見えた。 -えっ,何で?  ブライスが湖を背にして立っていた。 笑顔がこぼれていた。それを見て優志は胸がぎゅっとするのを感じた。 「ユウシ,俺もついて行っていいか?」 「どうして俺がここにいるのがわかったの?」 「さっき遼からクラブへ誘う電話をもらって,そのときユウシはボウの散歩があるからここに向かったって。散歩が終わったユウシを拾って,車でクラブに行ったらいいかなって」  ブライスは車道に停めた車に視線を向けた。 「それは嬉しいけど…」 「俺も走るよ。行こう,ボウ!」    優志の答を待たずに走り始めたブライスにボウがついて行くので,優志も走らざるを得なかった。ボウは最高潮に興奮してブライスを追い越し,優志とブライスが併走する形となった。  二人とボウはペースを合わせて10分ほど走り,あのだだっ広い公園に来た。 この日は老夫婦のペアが一組とその飼い犬が一匹いた。ブライスは彼らにことわってボウのリードを解いた。ボウは公園中を縦横無尽に走り回った。 「すごいな,ボウは」 ブライスはボウの走る姿に驚嘆のまなざしを向けていた。それから優志にその日の講座がどうだったか訊いた。優志は落ち着いて結果を話すことできた。そうして内心ホッとした。 ―ブライスは俺の学び具合を本当に気にかけてくれているんだ。 「来週が楽しみだな」  ブライスの笑顔は,優志に対する期待を表していた。それから,二人は週末のウィンドサーフィンの練習のことを話し会った。 しばらくするとボウは二人の所に戻ってきた。そして優志が持っていたビニールの道具入れをかじって引っ張った。遊んで欲しいのだ。 「ボウ,フリスビーをやりたいんだな」 先にいた老夫婦は帰ってしまっていた。優志はフリスビーを持ってブライスから離れ,ボウの方に放った。ブライスも参加して,二人で交互にフリスビーを放ちボウをだいぶ走らせた。青空と丈が伸びきった芝生しかない空間を,二人と1匹の歓声で満たした。
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