第3章 接近

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 果実が優志の唇に押し当てられた。優志はゆっくりと唇を開いた。果実が口中に押し込まれた。ブライスは人差し指が優志の唇に触れるまで,果実から指を離さなかった。少し躊躇する間があった。ブライスの人差し指はそっと優志の上唇に移動し,やがて柔らかさを確かめるように下唇をなぞった。  優志の心臓は早鐘のように鳴った。全神経が唇にだけ向けられたようだった。左手から、ブルーベリーがぽろぽろとこぼれ落ちた。  ブライスの右手からリードがぽとりと外れた。同時に,左手の人差し指が優志の唇の間からくっと中に進入してきた。  優志は慌てた。それで頭を後ろにのけぞらせてしまった。すかさず自由になったブライスの右手が優志の頭の後ろに回されて力を込められ,優志の動きを止めた。  ブライスと優志の顔はごく近いところにあった。ブライスは人差し指で優志の口中の果実を探し当て,ギュッと潰すように舌に押しつけた。それからゆっくり指を引き抜くと,その指を自分の口中に差し入れて吸った。  ちゅっ,とブライスの口から音が漏れて,優志は頭の中で一瞬,血が沸くような感覚を覚えた。  ブライスの顔が更に近づいてきた。彼の左手は優志の右腕を包み込んで背中に回されていた。優志の心臓はバクバクと跳ね上がり,どこからか飛び出すのではないかと思った。 その間も優志はブライスの瞳から目が離せないでいた。グレーの虹彩はいつもより暗い色味で潤いも増していて、熱い質感のものが揺らいでいた。  ブライスの唇が優志の唇に触れた。優志は動けなかった。しばらく触れたままで,それから強く押しつけてから僅かに離れていった。優志は震えながら息を吐いた。今度こそ心臓が飛び出る,と覚悟した。 すぐにブライスの唇は戻ってきて,優志の唇を上下一緒に挟み込んだり,片方ずつを咥えたりしてしっとりと濡らした。 何度も何度も唇を合わせているうちに,優志の震えは収まり,心臓が飛び出すような勢いは静まった。代わりに胸に甘い疼きを送り込む鼓動が続いた。 愛おしげに口づけをしていたブライスは,優志が身体を自分に預けてきたのを感じて,抱きしめる腕に力を込めた。 「…はああ…ぁ」 優志が熱いため息を漏らした。 それを合図に,ブライスの舌が優志の口中に分け入った。
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