第3章 接近

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ブライスは優志の唇に僅かの隙間も無いほどにきゅっと吸い着き,舌を絡め合わせた。それから舌で優志の口中を優しく優しく嘗め回して翻弄した。 優志は何も考えられず,ただブライスからされるがままになっていた。頭はぼうっとして,鼓動は早く,喉がぎゅっと締め付けられるくらい興奮が胸からせり上がってきていた。身体がふわふわするのを感じて,慌てて両腕をブライスの背に回して抱きついていた。 一瞬,頭の中の遙か遠いところから,いやならこの腕を振り払って逃げればいいんだ,という声が聞こえた。でも優志はそうしなかった。ブライスとのキスを受け入れていた。拒むことなどできなかった。 やがて優志は我知らず舌を差し出していた。その舌は吸われるままにブライスの中に導かれた。そしてさらにきつく吸われた。 -気持ち…いい… 優志はぎゅっと閉じた瞼の裏に,何かが広がっていくのを感じた。それは果てしない空間でありながら,同時にブライスと優志でいっぱいになってしまっていた。温かな空気が二人を包んでいた。 ―ウォン,ウォン… 二人は同時に目を開けた。ブライスは合わせた優志の唇をペロリと嘗めて,ようやく身体を離した。ブライスの瞳には切羽詰まったような感情が表れていた。 優志はブライスの顔を見ることができず,俯いてせわしなく呼吸をしていた。高まった興奮に顔は紅潮し,目は潤み,唇は濡れて赤くぷっくりと腫れていた。   ブライスは優志の両肩を抱いた。つられて優志はブライスの顔を見た。そして青みがかったグレーの瞳に捕まった。 「ユウシ,…愛してる」 ― 何て綺麗な瞳なんだろう。こんな色の瞳をもつ人がいるなんて…。そして彼は,俺を,アイシテル…  トクン,トクン…と優志は耳の奥に自分の鼓動を聞いていた。ブライスの瞳を見つめたまま,言葉が出てこなかった。唇が開きかけて,何を言ったらいいのか全くわからずそのまま止まってしまった。  ブライスは,優志の顔に困惑の表情を見て取った。 「…ユウシ,返事をしようと焦らなくていい。俺はもう自分の気持ちを隠せなかったけど,君は気持ちがはっきりするまで無理に返事しなくていいんだ」  諭すように優しく微笑んだブライスは,ボウの方を見ておどけたように声をかけた。 「やぁ,ボウ。待たせたな。さぁ,帰るぞ」
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