第3章 接近

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 ブライスはリードを優志の右手に持たせ,自分の左手をその上に重ねて握りしめた。ボウがシッポを盛んに振って二人の前を進んだ。  ボウのペースに合わせ,二人は早足で歩いた。優志はブライスに握られている自分の右手が熱く感じられてたまらなかった。 頬に赤みを差している優志に, ブライスは愛おしさが増してくるのを感じていた。 「優志,初めて君を見たときから好意を感じていた。一緒に湖で過ごしてお互いのことを理解するようになって,君は特別な存在になった。俺がゲイだった言ったとき,君は嫌悪感を表さなかったし,俺に対する態度も変わらなかった。…いや,俺のことを意識し始めたの,わかってたよ」  優志は,自分の態度がブライスに気づかれていたことが判り、顔がかぁっと熱くなった。 「俺は逆に君に対する気持ちを表さないように努力してた。…君に嫌われたくなかったからね」  言いながら,優志に向けてにやっと笑った。 「とても大変だった。まるで禁欲トレーニングしてるみたいだった」  優志はぷっと笑った。それを見てブライスも笑った。それから穏やかに言った。 「でも,自分の気持ちをこれ以上押さえられない。いやなときはそう言って,ユウシ」 ブライスの視線がリードを持つ二つの手に移った。 優志も重ねられた手を見つめた。そのとき,ボウが歩くスピードを速めたので,二人は合わせてジョギングすることになった。 「ボウ…,坂道なのに…」  ハーレー家まであと1ブロックというところで,ブライスはそっと手を離した。家の前にエリンがいて二人に手を振っているのが見えた。 「ボウ,ユウシとブライスに散歩に連れて行ってもらったのね。良かったわね!」  エリンは自分と同じくらい大きいボウを抱きしめた。ボウのシッポが激しく振られた。ボウを抱きしめたまま優志たちを見たエリンは、二人の唇がうっすらと青く染まっているのを見つけてぱっと笑顔を浮かべた。 「ユウシ,ブライス,ブルーベリーを食べてきたのね!今がベストだからさぞかしおいしかったでしょう!」  二人は同時に顔を赤くした。
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