第3章 接近

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 優志とブライスがクラブに着いたときには,待ち合わせの時間を30分以上過ぎていた。派手さのないパブのような気安い店だった。男女5人で和気あいあいとしていたが,優志とブライスが加わると,女子二人が色めき立った。  ブライスがソフトドリンクをオーダーした。優志は翌日の予定を思い出し,自分もビールは一杯目だけにしよう,と思った。  優志とブライスは並んでスツールに座っていたが,場所的にブライスが女性2人と対話することが多かった。   女子がやたらとブライスに質問していた。優志はどんなことを聞いているのか,何となく耳をそばだてていた。 「ガールフレンド? 今はいない。研究室にこもることが多いからなぁ。研究室にも女の子いるけど,研究室で悲惨な姿を晒してるから,プライベートも共にしたい子なんてそうそういないね。ま,お互い様だろうけど」    そんなことないです,ブライスは優しくて格好いいし,モテるはずですよぉ… 女子の声が続いた。 「ブライスが来たら,もってかれちゃったなぁ」 遼がぼそりとつぶやいた。男子陣が頷いた。 「で,この一週間の講座で一番おもしろかったのは何だった?」  ブライスがさらりと会話のテーマを変えて,みんなを対話の話に乗せた。ブライスは丁寧に一人一人の話を聞き,程よい質問をして話を盛り立てた。 英語能力が優志並なのは女子2人で,男子3人は苦戦していた。彼らは徐々に日本語が多くなった。ブライスはそのたびに優志に助けを求めて視線を送った。 結局,ブライスは残りの時間をほぼ優志の口元に耳を寄せて過ごした。時折誰かがジョークを言って盛り上がると,身体を揺すって笑いながら優志の肩を叩いてみたり,長い足をぎゅっと優志の足に押しつけたりしてきた。 -あからさま…じゃないだろうか…ブライスのスキンシップ…  優志は不安になった。仲がいい男同士のスキンシップに見えなくもない。しかし,ブライスの気持ちを知った今,しかも先週は彼が自粛していた分,今の彼の振る舞いのひとつひとつが優志にアピールしているように感じた。
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