第3章 接近

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 門限が近かった。日曜日に麻衣子とは違う女の子のホストファミリーが,みんなを海のクルーズに誘っているという。優志もブライスも参加することにした。  クラブを出てみんなで寮の方に歩き出す前に,ブライスが別れを告げた。 「じゃあ,俺はここで。おっとユウシ, 君の着替えた服,俺の車にあるんだった。臭くなるから取りに来て…」  みんな笑い出した。優志はいたたまれない思いでブライスのあとに続いた。 「みんな先に行ってて。ユウシは車で寮に連れて行くからっ」  寮は歩いて5分かからないようなところだったから,他の5人は歩き始めた。  優志とブライスが駐車場に向かって路地を曲がると,ブライスはそっと優志の腰に手を回してきた。 -…っ。変なところに車を停めると思ったんだ… 優志が逃れようとすると,ブライスが回した手に力を込めた。そして優志の顔を覗いて低く言った。 「酔っぱらったから…」 「ウソだ! ジンジャーエールしか飲んでなかっただろっ」 「そんなムキにならなくても…」 「ウソをつかれるのはいやだ,冗談でも!」 「なるほど…。俺が悪かった。では,俺は今、無性にユウシに触りたい。腰に触っていいか?」 「もうずっと触ってたし!車に着いんたから離れて!」 「つれないな…」 わざとらしくため息をついてブライスは優志から離れた。助手席のドアを開けてもらい,一瞬躊躇した優志は車に乗り込んだ。  ほんの1分ほど車を走らせると寮が見えるところまで来た。しかしそれは門と反対側の場所で,日本人学生の帰り道ではなかった。 「ブライス,今日はありがとう。じゃ,明日…」  すいっとブライスが優志に向き合うように身体を入れてきて,両肩に手を置いた。 「…ユウシ,キスしたい…」 ― 何て直球なんだ! 「拒絶しないと,受け入れるものと判断する…」 ― …すげぇ勝手…  そう思ったが優志の瞼も勝手に閉じた。  ブライスの唇が触れてきた。ジンジャーエールの匂いがした。ブライスはゆっくりと唇を味わい,それから中に入っていった。抵抗はなかった。優志の口内でブライスの舌が届くところを全て味わった。…全てがゆっくりと時間をかけて行われた。
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