第1章 出逢い

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ジェーンに用意してもらったランチを持って,優志は遼のホームステイ先のジョーンズ家に向かった。ハーレー家から西へ3ブロック,さらに北へ2ブロックのところにあるはずだった。スマホの地図アプリで確認していた場所を思い出しながら自転車を降り,この辺だろうかとあたりをつけた家の門で立ち止まった。すると平屋のその家の玄関ドアが開かれ,中からブライスが出てきた。  「やぁ,問題なかったかい?」 「はい,大丈夫でした。でも貴方が出てきてくれて助かった。」 「うん,窓から君が来るのを見ていたんだ。さあ,入って。リョウは今ランチを食べてる」  優志は中に入り,ダイニングキッチンで遼やブライスと一緒にランチを食べ,それから夏季講座に必要な用具とテキストのリストをチェックした。ブライスのおかげで不安なところなく確認できた。 「講義の復習用にボイスレコーダーを使いたいから,席は前の方にしよう。あ,ボイスレコーダーの使用許可はさっき受付でとったけど,画像や動画の許可申請を忘れてたな…。来週授業の前に申請しなくちゃ」 「授業者にもよるけど,初心者用の基本的な内容ばかりだから大丈夫だよ,きっと」 優志の心配はブライスの言葉で和らげられた。それからブライスは興味深そうに,なぜ優志たちが外国人向けの工学部の夏季講座を受けるのか尋ねてきた。遼は優志ほど英語が得意ではないから,今まで込み入ったことが聞けなかったらしい。 優志と遼は大学で出会ったのだが,二人とも小さい頃からロケット好きで,物心ついたときからレゴでロケットを作っては宇宙飛行を夢見ていた。その後関心はロケット工学に向かい,今は仙台にある大学の工学部2年生だ。 優志は主にロケットの燃料とエンジンについての研究に取り組みたいと考えて,ゼミを取る予定の教授にその意向を伝えていた。1年次の後半から,特殊エンジンの研究をしている先輩の手伝いもしている。そして学部生のうちに何らかの研究の基礎をまとめ,将来はワシントン大学の大学院に進むところまで夢描いていた。優志たちの大学とワシントン大学の工学部間で,交換留学生制度が整ったことも夢の後押しをしている。優志はできれば一生研究に従事したいと願っていた。遼もアメリカで大学院に進み,将来は小型航空機のエンジン開発に携わることを目指していた。
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