第3章 接近

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 優志の呼吸は浅かったが乱れるほどではなかった。心臓の鼓動も夕方のキスに比べたら穏やかなものだった。 二人は唇を深く深く絡み合わせていたが,時々ブライスは唇の合わせを浅くして溢れ出ようとするものを啜り,そのことが新たに優志の身体を熱くし,頭をぼうっとさせた。  優志の腕は自分を抱きしめるブライスの腕にやんわりとかけられていた。ブライスの唇が優志の唇から離れ首もとまで下りていくと,そこから首筋をじわりと嘗めあげた。 「…ひっ…っつ…」 優志の口から声にならない音が漏れ,体中に鳥肌が立つ思いがした。 唇を離したブライスは,薄明かりの中で大きく見開かれた優志の目を見つめ,それから満足げに微笑みながら優志の左頬に唇を押しつけた。 「ここまでにしておく。止められなくなるから…」 ブライスの声は聞いたことがないほど,掠れていた。優志はあたふたとブライスから身体を引いた。  ブライスは寮の真ん前に車を運んだ。優志は余裕無く車を降りた。一歩進みかけてからブライスを振り向いておやすみ,と言った。  おやすみ,とブライスも返すと,優志は足早に寮の中に駆け込んだ。  ブライスは,運転席の背もたれに身体を深く預け,ほうっと長く息を吐いた。  寮の部屋に戻ると,遼が上機嫌で話しかけてきた。 「みんなで金田さんと佐藤さんの部屋に集まることにしたんだ。お前も行くだろ,女子もいるんだぜ」  ホームステイをせず講座に直接参加した二人の部屋だ。二人とも学年が一つ上なので,さんづけして呼ばれている。優志は一人になりたかったので,ちょっと迷うそぶりをしてから答えた。 「わるい,ちょっと疲れたみたいで…。お前、行ってこいよ。俺は先に寝てるかもしれない」 「え,そうか? じゃあ,俺,行ってくるわ…」  遼が少し酔っているようで良かったと優志は思った。今の自分の顔をあまり見られたくなかった。  優志はシャワーを済ませてからベッドに横たわり,目を閉じた。夕方からの出来事が次から次へと浮かんでくる。 ―俺,ブライスとキスした。…2回も…。流されているな。きちんと考えなくちゃ…。
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