第3章 接近

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 優志は起こった出来事を逆から考えてみた。 -キスされるのは…嫌だ。男とキスするのは…俺がしたいことじゃない。自分が自分でなくなるような気がする。 -触られるのは…自然にそうなるのはいいが,意図的に触られるのも嫌だ…な。 どきどきして,やはり自分を見失う。 ―ブライスは俺のことを「愛してる」と…。それはブライスの気持ちで,俺にはどうしろとも言えない。じゃあ,俺にそれを告げるのは?…わからない。無理して答えなくていいとブライスは言った。ありがたい。答えなければならないとしたら,無理だ。 ―ブライスと一緒に過ごすのは,大好きだ。研究のことにしろ遊びにしろ,ただふざけるにしろ,一緒に過ごすことが楽しい。「喜び」と言っていいくらいだ。 こんなに短期間で俺の中で一番親しくなった人。もっとブライスのことを知りたいし,俺のことも知って欲しい。 ― 親しい友。気持ちを分かち合える人…。 ウィンドサーフィンでこちらを振り向くブライスが瞼の裏に浮かんだ。満面の笑みだ。優志は目を閉じたままそれに応えて微笑み,そしてそのまま眠りについた。 翌日の8時過ぎ,深夜遅くに戻った遼はまだ寝ていた。その日優志はみんなとは別行動を取ることにしていたので,遼に声をかけずに部屋を出た。大学の前に出ると,約束の時間の5分前だった。来ているんじゃないかと,予感はしていた。案の定、ブライスの車が見えた。  優志の姿を認めて,ブライスは車から降りて助手席側に回り込もうとした。 「おはよう,ブライス。待って,ドアは自分で開けるよ」 「あぁ,おはよう,ユウシ。わかった…」  近づく優志に少しいぶかしげな表情をしたブライスだったが,すぐに優志に優しく微笑んだ。優志の右肩に手をかけて,その頬にキスをしようと身を寄せかけた。すると優志はちょっと身をよじって離れた。笑顔ではあったが,強い意志が表れていた。 「ブライス,聞いて欲しい。俺,ブライスにこうやって女子扱いされたくない。…キスされたくないし,身体に触るのも,その,わざとだったら止めて欲しい」  ブライスの表情が固まった。優志は半分,怖いと思ったが,自分の考えを全て言わなくてはと,自らを奮い立たせた。
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