第3章 接近

14/33
前へ
/116ページ
次へ
「俺も面白かった」  ブライスはにっこりと笑って,思わず優志の後頭部の髪の毛をかき混ぜようと上げた手を,はっと気づいてゆるりと下げた。申し訳なさそうな顔になった。  優志はそれを気にかける様子を見せず,言葉をかけた。 「これからボウの散歩に行くことにしてるんだ!ブライスも行く?」  ブライスは優志の爽やかな物言いに胸を打たれた。 「もちろん…」  二人はハーレー家で待っていたエリンとボウと一緒に,散歩コースへ出た。エリンは自転車だったが,二人はまたジョギングだ。余計なことを考えなくてもいいな,とブライスはほっとした。  しかし、ブライスは自分の過去を思い出していた。昔から友だちは多くなかった。仲良くなると親密になりすぎて,その子とだけ遊ぶ,という感じだった。その子が引っ越ししたり,運動にのめり込んで生活時間が違って遊べなくなったりして離れていく。その繰り返しだった。 14歳でゲイだと認識してからは,逆に一人の友だちに固執しないようになり,周囲と広く浅くつきあえるようになった。誰かに恋するのが怖かった。恋しても別れが来るのを経験から学んでいた。  17歳のとき,水泳の大会で一目惚れした子がいた。繊細で綺麗な子だった。その子のことを見つめていたら,その子もゲイだと判った。どう見返してくるかで判るのだ。  性的にも成熟しかけていたから,勇気を出して交際を申し込み,つきあい始めた。すぐに性的な結びつきも経験した。初めての恋愛が上手く進んで二人とも幸せだと感じていた。  しかし,交際に関して完璧には用心していなかったせいで,二人がつきあっていることが学校で噂になった。水泳部の部員から広まったようだった。あからさまな嫌がらせが続き,ブライスは学校のカウンセラーに相談した。結果,ブライスは噂を否定し,自分はゲイではないと公言することになった。相談はしたが,ブライスが自分で下した結論だった。  ブライスの通う学校は規模が小さい私立高校で,学生の道徳観や価値観が似通っていた。ゲイは違法ではないけれど,自分の近くにはいて欲しくない…。そんな空気が明らかに感じられた。  
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加