第3章 接近

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「エリン,何を話していたんだい?」  ブライスがくすくす笑いながら訊いた。 「ブルーベリーの妖精にお願いして,特別においしい実がどれなのか教えてもらったの。おいしいのはキラッて光って教えてくれるのよ。はい,召し上がれ」 エリンは愛嬌のあるすきっ歯を見せながら,こぼれんばかりの笑顔で二人にブルーベリーを一粒一粒数えて分けた。 「ブルーベリーの花言葉はね,『実りのある人生』,『知性』,『信頼』,『思いやり』よ」  優志とブライスはエリンを見つめ、それからお互いを見つめ、最後にブルーベリーを凝視した。 二人は何かの約束を交わすかのように厳かにブルーベリーを囓った。4粒囓り終わって顔を合わせた。昨日とは違う味わいがした。 一実りある人生,知性,信頼,思いやり 今の二人に相応しい花言葉であった。 ハーレー家に戻ると,ジェーンが熱心にブライスを夕食に誘い,結局彼は身支度を調えて再度来訪することになった。  夕食はグリンピースのポタージュ, サーモン・ソテーにレモンベースのソース,数種類の野菜のフレッシュサラダにブラウン・ブレッドだった。ハーレー家の食事は大体がヘルシーで簡素なものだった。  ドクター・ハーレーはブライスに盛んに大学や研究のことを尋ねては,ブライスの能力を褒めそやした。 「ブライスは,ここら辺では10年に一人の才能の持ち主だ。君が大学に行くためにここを離れたのは仕方がないが,いつかは戻ってくるのだろう?」 「よくわからないですね。自分が今やっていることを,こっちでも続けられるのかどうか…」 「航空宇宙工学か…。ボーイング社がシカゴに移ってから航空産業はなくなったが,開発事業そのものは残っている。君もこちらで宇宙工学の研究室を立ち上げればいいんじゃないか?西海岸一帯じゃコンピュータを使って何でも作り出しているんだから。あぁ,手作業で作るコーヒーもあるがね」  黒縁めがねに髭だらけのドクターがウィンクしてにっこり笑った。優志はドクターがとても好きだった。大学病院の麻酔科に勤めていて,その風貌も含めて包容力が感じられた。 「それからユウシは学部を卒業したら,ワシントンの大学院に来たらいいね。あそこはいい大学だ。きっと君がやりたいことができる」  またもやにっこりと目を細めて微笑んだ。 「そうできればいいんですが…」
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