第3章 接近

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 翌朝,ウィンドサーフィンのために迎えに来たブライスを,さすがに優志は直視できなかった。 ウィリアムズ家のビーチで基礎練習もそこそこに ,優志はすぐにプレーニングをせがんだ。こうしたらブライスの後ろを進めば良いだけだから,優志はほっとした。 ブライスが右に左にと旋回する度に,彼の背筋が形を変えてしなる。優志がその動きを見つめていると,ブライスが振り向いて笑いかける。時には,越していいよ,と顔で前に促すしぐさをする。それにも優志は反応してしまう。 ー格好よすぎる… 2時間ほどで二人は陸に上がった。 ジェニファーと麻衣子が彼らを迎えた。 「おはよう,ブライス,ユウシ。素敵なクルージング日和ね」 クルージングに誘ってくれた女子は三谷さおりといい,彼女と麻衣子をジェニファーが車に乗せていくという。 「マイコたちを送っていくついでに,私もヨットに乗ることにしたのよ。テイラーさんとは知り合いだし」 ジェニファーは,誰もが目を奪われるような華やかな笑顔だった。髪もメークもナチュラルに見えるように,いつものように細心の注意を払って整えられていた。服装もクルージングを意識した完璧なスタイルだった。 ブライスが寮に回り,遼を拾った。それから車を2台連ねて15分ほど走り, スミス湾に向かった。そこにヨット・ハーバーがあり,桟橋に何百ものヨットが停泊していた。ジェニファーはすぐさま目的のヨットを見つけて持ち主に駆け寄った。  中型のヨットにテイラー家の3人,日本人学生4人にブライスとジェニファーが乗り込み,船上は窮屈に感じられた。それが却って海上にいる高揚感を高めて,学生は興奮気味だった。  船の座席は,運転部分の後ろ側にコの字型に設置されていた。優志は意識してしまいブライスとは隣り合わないようにして座った。ブライスの隣には遼とジェニファーが座った。  ブライスは黒いサングラスをかけていた。ブライス自身には海のイメージはないが,サングラスはこれ以上ないほど似合っている,と優志は思った。  船はゆっくりと滑り出し,大小様々な島々を縫うように進んだ。風は弱く,船上の若者に夏の日差しを存分に与えてくれた。すぐにテイラー夫人が飲み物とスナック,サンドイッチなどをテーブルに並べた。  離れて座ったおかげて,優志にはブライスのことがよく見えた。実際見えすぎて落ち着かない程だった。
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