第3章 接近

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 遼はあきれ顔をしたが,内心,優志が被災したことは話題にして欲しくなかったのだと理解し,自分の軽はずみな発言を後悔していた。  ブライスは,ほんの少しだけ顔を優志の方に向けたが,すぐにまたヨットの後方にできる白波に視線を戻した。  タイミング良くヨットは小さな島の桟橋に停められ,みんなで島に上陸して30分ほど散策することにした。ジェニファーはほとんどブライスから離れず,日本人学生は固まって行動していた。  優志の気分は晴れなかったが,島の散策コースはのどかな感じがして,ただ歩くだけで身体がリラックスした。  桟橋に戻ってヨットの狭い空間に収まろうとした時,ブライスは日本人集団とジェニファーを先に乗り込ませた。そのあとで乗船したブライスは,ジェニファーの反対方向に回り込み,席の端でまだ座らずに中腰だった優志の隣にすいっと進んで一緒に腰を下ろしてしまった。 優志が,えっ,と思った時にはもう優志の身体をぎゅうっと押しやって自分のスペースを確保し,狭いから我慢しろよ,とでも言うように口の端を上げて優志を見やった。優志は仕方なく反対隣の遼に,わりぃ,と片手を立てて詰めてもらった。 帰りは日本人学生の会話は夏季講座の内容に終始した。翌日からの講座の内容と進め方,グループで活動するときの心構えなどを話し合った。優志もぼんやりしないように積極的に話しに加わった。 ジェニファーはテイラー親子と話していたが,何かにつけてブライスを自分の会話に引き込もうとした。日本人大学生の会話とジェニファー達の会話とを行ったり来たりしながら,ブライスはリラックスしていた。脚と腕などの弛緩具合から優志にはそれがよく判った。  隣りに座ったせいで,優志はブライスの顔を見ることがあまりなかった。その代わり,優志の身体の片側に常にブライスを感じていた。強烈な感触だった。その感触を嬉しいと思ってしまう自分に,優志は気がついていた。そんな自分の気持ちをどう扱ったらいいのかわからず,困惑して,早く陸に上がりたいと願っていた。
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