第3章 接近

21/33
前へ
/116ページ
次へ
「…じゃあ,土曜日は午前中コミュニティーセンターでテニスね。ユウシ,ユウシ!聞こえてた?」 「…えっ,ああ,テニスだね…」 「そうよ,ユウシの腕前を披露してね。私はそれまでに,ブライスとデイビッドにテニスの特訓をしておかなくてはね」  華のように笑ってジェニファーがヨットを降りた。もうヨットはスミス湾の桟橋に戻っていた。ブライスは降りるよ,と顔で出口を差して優志に下船を促した。ブライスの体温が一気に優志から奪われて,優志は我知らず,あっという表情を顔に作った。ブライスが自分に微笑んだ気がした。 ジェニファーはブライスに近寄り,何かを囁いてにっこりと笑い,テイラー家の人々に盛大に感謝の言葉を述べた。  優志たちも一通りテイラー夫妻にお礼を述べ、ブライスの車で大学の寮に戻った。翌日からの講座に向けて3人で二言三言言葉を交わし,ブライスは帰った。 あっさりとした別れだったが,明日また会える,と優志は気分が明るくなった。   夏季講座の3週目が始まった。午後の演習はメンバーを変えられ,午前中に扱った複数の文献を分析し,比較評価するものだった。  一日目は新メンバーと演習方法を確認するだけで終わった。優志たちにとっては,困難な内容だと感じた。扱う文献が2年次の優志たちにとっては目新しい物もあったし,得意な領域とは限らないからだった。  そこで,扱われている文献に強い学生は誰かを見極め,その人をリーダーに据えてそれぞれの役割分担を決めた。そうやって活動していく内に,誰がどの役割に力を発揮するかが判るようになってきた。  優志は複数の文献の特徴を押さえることに長けていた。そこで韓国人リーダーと文献分析に回った。それぞれの特徴を裏付ける資料は台湾とタイの学生が,まとめるのは英語が得意なシンガポールの学生が…というように翌日の活動に向けてグループ内で分担をした。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

285人が本棚に入れています
本棚に追加