第3章 接近

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 緊張がほどけ,安心感で心が満たされようかというとき,ベッドに横たわった優志はスマホを取り出した。  ワッツアップでブライスのアカウントを押し,少し迷ったがメッセージを書き送った。 ―講座の演習は心配したよりも上手くいきそうだ。ブライスが教えてくれた資料の出処にも助けられている。感謝している。 家に居たのだろう,すぐに返事が来た。 ―大丈夫だろうと思っていた。明日以降の成功を祈っている。気楽にいけよ,ユウシ!  当たり障りのない文だが,すぐに応えてくれたことに胸が熱くなった。スマホを胸の上で握りしめて,もう一方の腕を額の上に乗せ,優志は目をきつく閉じた。 ―ブライス…,会いたい。  優志は演習に気力と体力を使い果たし,毎夜疲れ果てて眠りについた。ただ,学習室から戻るとすぐにブライスにメッセージを送って進捗状況を伝えることは忘れなかった。率直で温かい返信をもらうのを褒美と考えていたのだ。  ブライスは火曜日と木曜日の日中,ジェニファーに誘われてコミュニティ・センターのテニスコートでテニスの練習をしていた。ジェニファーの弟のデイビッドも一緒だった。彼女は2人にサーブ,レシーブ,ボレー,スマッシュと一通り基礎練習をさせ,試合もした。  球技はあまり得意じゃない,と言いながら,ブライスは優雅に動いてプレーを楽しんでいた。デイビッドも水泳部員だが,15歳という若さで難なくテニスをものにした。  木曜日には2人を試合ができるだけの状態にできたのが嬉しくて,ジェニファーは自慢げだった。 「これで土曜日のテニスは楽しくなりそう。ユウシがどれくらいできるのか判らないけどね」 「中学からもう7年はやってるって言ってた。俺とデイビッドじゃ太刀打ちできないね」 「あら,じゃあ私がお相手するしかないかな」  応援してね,と笑顔で言うジェニファーに,ブライスは微笑んで見えるようにただ両側の口元を上げて見せた。 ―サングラスをしていて良かった,ジェニファーと会うときはサングラスを外せない,…心から笑えないからな…。  ブライスは胸の中でため息をついた。
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