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午後一緒にウィンドサーフィンを,とジェニファーが強く勧めるのを断って,ブライスは1人で公設の桟橋から手こぎボートに乗った。
この週の月曜日から毎日そうしていた。
湖からワシントン大学が見える場所までボートを移動させ,そこで物理や工学の本を読んでいた。シアトルの日差しは夏でも柔らかく,日焼け止めを塗ればダメージは少なかった。
2,3時間集中して本を読み,少し気温が下がるのを感じるとブライスは大学の方向を見やった。
-ユウシ,会いたいよ…。とっても…。
ブライスの口から切ない吐息が漏れ出た。それから唇が動いた。
―愛している,ユウシ…。
その日,ブライスは午後7時に母のアセナと夕食を取っていた。2人は前週は全く一緒に夕食を共にしていなかった。それが日曜日からブライスの顔を見ながら食事ができて,アセナは単純に嬉しかった。
ところが5日連続して夕食時に目の前に座っているブライスに,母親として多少心配なことが生じてきた。
「…ブライス,何だか今週は寂しそうね。日本人学生のお手伝いをしなくなって,少し張り合いがなくなったかしら…」
「あぁ,どっちかって言うと,先週頑張りすぎたんじゃないかな。…心配ないよ,お母さん」
ブライスが安心させるようにアセナに向かって頷いた。
「…私はこれまで日本人学生と接したことがなかったけど,リョウとユウシはとってもいい子たちで,一緒に過ごして本当に楽しかったわ。ホームステイを引き受けて良かったと思ってるわ」
「…特にユウシはあなたと気が合うみたいで,…なんて言うのかしら,大学生のあなたにこんなこと言うのは変かも知れないんだけれど,…あなたがユウシと一緒に居るのを見ると,幸せな気持ちになれたのよ…」
ブライスは母に向かって目を細めて, 2,3度小さく頷いた。
―変な意味じゃないのは判っている,母はただ友人の少ない俺が誰かと楽しそうに過ごすのが珍しいんだ,そういう息子を見るのが嬉しかっただけだ。…決し俺の気持ちに気づいている訳じゃない…。
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