第3章 接近

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 金曜日の夕方,演習でプレゼンを終えた夏季講座の学生達は,疲れと安堵と開放感に溢れてクラブに繰り出した。優志も今少しプレゼン内容に消化不足感を感じながらも,十分に満足感を得ながら集団の中に居た。  1杯目のビールを飲みながら,優志はブライスにメッセージを打っていた。 ―3週目終了。ブライスのお陰で,自分たちの力でプレゼンをやりきることができた。とても自信がついた。ありがとう。 -みな,それぞれ力があるんだ。やり方さえ押さえればきちんと形にできる。君たちの力が発揮できて俺も嬉しい。 ―今クラブで飲んでる。ブライスは何してる? ―本を読んでる。大学に戻ったときにすぐに取りかかりたいことがあるから,その予備知識備蓄中。 ―なるほど。頑張って。明日,よろしくお願いします。 ―楽しみだな。お手柔らかに。9時に迎えに行く。  いつも通り思いやりが感じられるブライスだった。今日会えないかな,と優志は淡い期待を持っていたが,やんわりと断られたのは感じた。明日会うのだしそれ以上は求められない。わかってはいたが,優志は空虚な気持ちになるのを止められなかった。 翌朝,優志は遼を叩き起こして何とか9時に寮の門に転がり出ると,ブライスが守衛とにこやかに話し込んでいた。2人を見ると,ブライスはいたずらっぽい笑顔を浮かべた。 「やぁ,おはよう,今日は起きられないんじゃないかと守衛さんが心配していたところだ」 5日ぶりに見るブライスは,白いポロシャツに白いハーフパンツ,そして白いスニーカーだった。まるでテニスのカタログのモデルみたいにベタな格好で,優志はまぶしさを覚えた。そして瞬時に優志の心を占領してしまった。 ―会いたかった! 「ふふっ,プレーで勝てないのは目に見えてるから,格好で勝てるようにね」  ブライスの笑顔にくらくらする,そう自覚した優志は挨拶もそこそこにブライスの車に乗り込んだ。
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