第3章 接近

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 コミュティ・センターのテニスコートは毛足の短い全天候型で6面あり,すでに半分ほど使われていた。ブライスが着くとコートからジェニファーが駆け寄り,腕を回して挨拶した。優志と遼にも気の利いた言葉をかけて,今日の進め方を説明した。  管理室からラケットを借りた優志は,ジェニファーと乱打を始めた。優志は大学の同好会で週に2,3回は練習していたが,もう1ヶ月はボールを打っていなかった。高校時代はテニス部員だったジェニファーも大学では週末にプレーしていた程度なので,同レベルの打ち合いになった。  ジェニファーと優志がシングルスのゲームをしたあと,いろいろな組み合わせでダブルスのゲームをした。優志は徐々に勘を取り戻し,その場で一番上手なことがわかり,遼やデイビッドと組んでプレーした。勝ち負けではなく,ラリーが続くように心がけた。 ブライスは長い手足を余裕のある動きで使い,美しいフォームでプレーしていた。優志はその動きに魅入り,時折見せる笑顔に釘付けになった。普段通り周囲の人に気を配り,ねぎらいや励ましの言葉を忘れない。一緒にプレーしていてとても気持ちが良いプレーヤーだとわかる。 ジェニファーとブライスがペアを組んだとき,ブライスは変わらずに笑顔を浮かべ,適切な場面でパートナーに前向きな言葉をかけるのだった。そのたびにジェニファーは満面の笑みで応え,まるでブライスのパートナーとしての地位を少しずつ固めているかのように優志には見えた。 ―誰もブライスがゲイだなんて気づかないよ… それぞれが十分に身体を動かして楽しんだ。そろそろ切り上げようかというとき,ベンチで汗を拭きながら優志はブライスをちらっと見た。紅潮した頬をしたジェニファーが,ペアで満足できるプレーができたとブライスに伝えていた。ブライスはほぼ目を閉じて頷いていた。 ―黙ってたら,女の子が勘違いしちゃうよ…  優志は遼とラケットを返しに管理室に向かった。  ジェニファーはデイビッドと車で家に戻り,優志たちはブライスの家でシャワーを使ってからウィリアムズ家に行くことにした。
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