第3章 接近

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 セアラはホッとしたように微笑んで,それからからかうように笑った。 「今日はブライスなしでボウの散歩に行かなくちゃね」  ボウの散歩を終え夕食を済ませたあと、ハーレー家のみんなと裏庭で過ごした。ボウを相手にキャッチをしながら,風が少し冷たくなったのを感じた。 「さすがに夜はTシャツ1枚では寒いわね」 ジェーンが誰にともなくつぶやいた。仙台だったらお盆の頃までうだるような暑さで,夜もクーラーを使ってるなぁ,とふと優志は考えた。 通信アプリでメッセージを送ってみると,やはり朝から30度超えだと返信が来た。シアトルは涼しいみたいで羨ましい,あんた,もう仙台には帰らないって言い出すんじゃないかと心配してたわ、と母親が書き送ってきた。 ―大丈夫,帰るよ。  優志は自分に言い聞かせるように小さく言った。  夜,優志はベッドに横になっていたが眠ってはいなかった。それぞれが寝室に入って1時間半が過ぎていた。 ―11時半か…。そろそろかな…。 優志はベッドを抜け出し,スウェットパンツとTシャツの上にパーカーを羽織った。ゲストルームから出ると向かいの部屋を遠慮がちにノックした。ハーレー夫妻の部屋から一番遠い場所にあるから夫妻には聞こえないだろうが,部屋の主がイヤホンを使っていたらダメだ。 不安に思って待っていたら,誰?とそっとドアが開いて,薄暗い灯りが漏れてきた。良かった,イヤホンはしてなかったらしい。優志はセアラの部屋に滑り込み,ドアを閉めてそれでも小さな声で言った。 「セアラ,お願いがあるんだ。これからどうしても出かけたいところがあるんだけど,セキュリティを切って俺が出たら元通りにしてくれる?」  セアラは一瞬理解できない,という表情をしたが,すぐに満面の笑顔になった。大声を出しそうになったのを見て取って優志が慌ててセアラの口に手をあてた。そして視線をドアに向けた。 「…ぅ,うん,わかったわ」  2人はそっとキッチンに降りて行き,セアラはセキュリティをオフにした。優志は小さくサンキュ,と言ってキッチンの裏口から出て行った。グッドラックとセアラが口の中でつぶやいた。
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