第4章 約束

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優志は上半身をブライスに預けたまま,片足を部屋に踏み入れた。しかし,あと僅かで床に届かずバランスを崩してしまった。ブライスに全体重をかけてからようやく右足が床に着いたが,左足がまだ窓枠に引っかかっていた。 「んんー,ん…ん!」 ブライスが後ろにひっくり返りそうになるのをこらえていた。優志が左手で左足を引っ張ると,足が窓枠から外れた。その拍子に二人してブライスの後方によろめいた。 「…とっとっと…,おっとぉぉっ… 」  優志がブライスを自分の方に引っ張り直そうとしたが遅かった。危機的な状況なのに,ブライスは咄嗟の判断でベッドのある方向に足を進めた。もう限界だ,優志が目をつむると,二人でひっくり返ってしまった。 思いの外,柔らかな物に横たわったのを感じて優志はホッとした。さっきから驚いた顔のままのブライスの上からすまなそうに立ち上がった優志は,ブライスの母親に聞こえないか気にしながら小さな声で話し始めた。 「…驚かして,ごめん」 「…一体どうしたんだ?」 「ブライス,ケガしてない?」 優志はブライスの手を引いて立ち上がらせた。 「あぁ,何ともないよ…。ユウシ,どうしたって言うんだ,こんな時間に…」  優志はへへっと照れ笑いをして,窓に近づき,ゆっくり音をさせないように窓を引き下ろして鍵をかけた。そこから部屋の中を見回した。 柔らかな間接照明と机の上のライト。2台あるパソコンは電源が入っていなくて,読みかけの本が開かれたままだった。横のノートには,一面に数式らしきものが書かれているのが見えた。机の横には本が詰まった壁一面の書棚。優志は何だか胸がいっぱいになった。 優志はブライスの方を見た。真っ直ぐに見つめた。 「ブライスに会いたいと思ってきた。会って話さなくちゃと思って…」
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